読んだ本 037〜

「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」/恩田陸講談社 酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記

 “ノスタルジアの魔術師”が、アイルランドの「心のふるさと」タラで思い描くという描写は、それだけでも価値があったと思いました。好きな小説家が、どのようにイメージを構想するのか、「イメージを喚起させるような場所で風景に問いかけてみると、ひとつの場面が見える」などというところ、想像するだけでゾクゾクしました。ちょうど、去年旅行に行ったルートそっくりだったので、読んでいると余計にイメージしてしまって。
 でも、この本のメインは、そんなところではありません。そもそも、一応の前提は旅行記なのだと思うけど、これって旅行記か?だって、飛行機の話1/3、ビールの話1/3だよ?海外初心者ということをあらわす、某歩き方の本そっくりのカバーデザインがなんだかにくいね。「あれ(飛行機)」に乗らなければいけないという恐怖が延々とつづられ、あちこちに脱線していくところが本当に楽しい。だって、真っ白な意識のなかで機長に向かって『アルバートっ。下手糞っ!帰れっ。』って…。
 氏の代表作を一通り読んでから読むという前提条件がつくけど、小説よりもハマると面白いんじゃないか、なんてちょっと思ったり。新鮮でよかったです。
はてな年間100冊読書クラブ 037/100>


「賞の柩」/帚木蓬生/新潮社(新潮文庫賞の柩 (新潮文庫)

 テーマでいえば、ノーベル医学賞の闇の真相を探るフィクション、というところ。あくまで虚構だし、あってはならない話なのだろうが、現実にこういう話があってもたぶん驚かないだろうなぁ、というような綿密に組み立てられたストーリー。読んでいてハラハラドキドキ感はないけれど、適度なリアリティを持って、安心して読み継ぐことができるというのは作者の力量だろうと思う。個人的には、最後、主人公のカップル2人が後日談を語り合うところは、ちょっとわざとらしい蛇足感も感じたけれど。
 いや、現役医師の方なのでテーマがノーベル医学賞なのだろうけど、出世や名誉が絡んだとき、いやもっと身近な世界でも起こりえることなのでは、と思うと少し背中に冷たいものが走るような。
はてな年間100冊読書クラブ 038/100>