読んだ本/再読モノ 032〜
西澤保彦の匠千暁シリーズを無性に読みたくなって、本棚をひっくり返して週末にシリーズ再読。
正確には「彼女が死んだ夜 (角川文庫)」と「麦酒の家の冒険 (講談社ノベルス)」の後に読んだのだけど。そもそもは3月上旬に放送されたABCテレビ「安楽椅子探偵」シリーズのあと、上記のうちのちょっと風変わりなアームチェア・ディテクティヴもの「麦酒の家の冒険」を読みたくなり、どうせなら前々からシリーズ一気に読みたいと思っていた(季節的にもずっと外に出歩くのもつらかった)ので、上記のとおり2日間の引きこもり期間を捻出したというわけで。(以下ネタバレを含む可能性ありなので↓)
酔っ払ってグデグデになるほど推理が冴えてくるという、『酩酊推理モノ』ともいうようなこのシリーズだけど、上記の3冊がミステリーか推理小説かといわれると疑問ではある。「彼女が死んだ夜」「麦酒の家の冒険」までは、アクロバティック本格とでもいうか、推理に推理を重ねて「ほんとかよー」的な結論に落ち着くところなんてところが面白かったりするのだけど、それが後の3冊になってくると、主人公の心と動きに重点が置かれていることもあり、叙述小説かと思わせるような雰囲気を醸し出す。特に「仔羊たちの聖夜」はタックの、「スコッチ・ゲーム」はタカチの、「依存」ではウサコの視点と、それぞれのキャラクターによって語られている(一人称で、とは限らないが)こともあってだと思うのだけど。ただし、別の視点からいうと、この3作はそれぞれこの視点で語ることで良さが出ている、語らないと成り立たない、というかそうでないとぐちゃぐちゃして読めないだろう、と思う。特に「依存」でのウサコがひとつの区切りとともに生まれ変わるというラストでの心の動きなどものすごく切なくて故に魅力的に思える。
また、キャラクターの日常のテンポに合わず、このシリーズのテーマは深い。予想もしないところからパズルのピースが出てくるような。深層テーマとして語られる、支配と被支配の関係、ジェンダー論、依存症、歪みと苦しみ…。設定は現実離れしているのかもしれないが(これでもこのシリーズは他に比べると現実的だと思うけど)描かれている人間のある意味での人間臭さは絶品だと思う。その分重く、痛いのだけど。そうはいいつつも、シリーズ独特のキャラクターのノリというかテンポで、思ったよりも読後感は悪くありません。考えさせられつつも、勢いで一気に読めてしまうところがまたうまいところだとも思う。好き嫌いははっきり出そうですが。
西澤小説の描く『心の痛み』を特に存分に味わう(?)ことのできるこのシリーズ、私の一番思い入れのあるものでもあります。もし、これからこのシリーズを読まれるなら、是非「彼女が死んだ夜」*1から「麦酒の家の冒険」と、また少なくとも上記の3冊だけでもこの順番に読んでほしいと思います。気に入ったときに後から後悔しないために。
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