旅先で読んだ本

火車」/宮部みゆき/新潮社(新潮文庫

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 自己破産を巡る2人の女性の悲しい運命。休職中の刑事が探す女の、裏にある重い封印してきた過去。事故や破産をする人は、そういう悪いことをするような人間だ、と思ってはいけない。普通に生活をしている人が、ある日ふとしたきっかけで突然転落してしまう…うろ覚えだが、このような内容のテキストを読んでそら寒い思いがする。
 しかしこの人の筆力には相変わらず驚かされる。歴史物は普段から余り読まないけれど、それ以外の小説でもなぜかいつも抵抗があってなかなか読まないのですが、読み始めると止められなくなってしまうのです。

「何もなくて豊かな島―南海の小島カオハガンに暮らす」/崎山克彦/新潮社(新潮文庫

何もなくて豊かな島―南海の小島カオハガンに暮らす (新潮文庫)

何もなくて豊かな島―南海の小島カオハガンに暮らす (新潮文庫)

 ある程度日本で成功を収めた(といえる)著者が、新たな刺激を求めて、ふとしたことからフィリピン南方の小島を買い取り、そこで既住民と一緒に生活する途を模索する。そうして島の住民の理解を受け、島の事を第一に考え、島を守ろうという姿勢は真摯だと思うし、感動的だと思う。なかなか読んでていい話だとは思う、のですが…。ある日突然「この島を買った」という見もしれぬ人間が来て一緒に生活するという。そうして「島のために」と生活の改善(?)になるような事をいろいろ行っている様だ。これって、列国の植民地支配と何か違うのかな。たしかに住民のことを考え、住民のために動く姿は感動もする。ただ、結局、自分のいるこの島以外の環境は変わらないわけだし、そのある一点を(住民のための=自分のための)楽園にしようなどというのは、結局企業経営と同じような支配欲(そしてエゴ)の気が感じられてしまうように思えてしまうんです。たぶん著者の方は、表だってそんなことはお考えではないと思うのですが…。

「古地図に魅せられた男」/マイルズハーベイ(Miles Harvey)、島田三蔵(訳)/文藝春秋(文春文庫)

古地図に魅せられた男 (文春文庫)

古地図に魅せられた男 (文春文庫)

 古書店で購入時、エッセイか小説と思っていたら、古地図泥棒についてのノンフィクションだったことに途中で気付いた(ちょっと遅い)。冴えない古書店主が実はアメリカ史上最悪の地図泥棒だった…この泥棒に限らない、古地図と地図好きを巡る冒険譚にはなかなか興味深いものがある。ただ、古地図泥棒が魅せられたのは、実は地図の魅力でなくその金銭的価値だった…結局、地図の価値は地図好きが決めるのでは(ある種)ないのだとわかってしまうと、なんというか残念な感じがする。まあそういう自分は地図好きなんですが、地図をコレクションする人の気持ちは同意できても、地図を売買する人の考えはわからないな。

涼宮ハルヒの陰謀」/谷川流角川書店角川スニーカー文庫

涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)

 涼宮ハルヒシリーズ第7弾、ひさびさの長編だけど、ちょっと番外編っぽい。一応今後に続くような布石はあるけれど。なんというか、最初のころからすると登場人物が少しづつカドが取れてまとまっていっているように思う。現実世界なら良かったなというところだけど、小説だから「そんなに丸くなっちゃって、この後(おもしろさは)大丈夫?」という感じ。でも、この人のテンポ(たまにあたりはずれはあるけど)と、この小説の主人公一人語りの文体は結構好きです。今回のハルヒの感情の元凶がそんなとこに?と思うと可愛らしいなぁと思ってしまう。なるほど陰謀ね。