「ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖」

 東アフリカにあるヴィクトリア湖での、世界でもあまり類を見ない短期間での進化過程を著者自身の5年間にわたるフィールドワークと重ねながら語られる、なかなかユニークな本。
 ただし、内容は面白いという話ではあまりない。シクリッドフィッシュ(現地名:フル)の劇的な速度での進化、多種多様な生物の生息により、ここヴィクトリア湖は「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていたの。しかし、タンザニア宗主国であった英国人が湖に放流したナイルパーチは、天敵がいないため爆発的に急増したために生態系バランスを崩し、ついにはシクリッド種ての絶滅の危機まで追い込まれつつあるそうな。ちなみに、本国オランダでは最優秀科学書賞を受賞するとともに文学賞の候補にも挙がったとか、生物学(進化論)と文学作品に環境問題まで、広く考えさせられるなかなか興味深い本でした。ハードカバーながら、厚さを感じさせない(持ち歩き時は重かったけど)のと翻訳っぽくない読みやすさがよかったのかな。
 ちなみに、「ダーウィンの箱庭」と呼ばれたヴィクトリア湖の現状は、「ダーウィンの悪夢」というドキュメンタリー映画で知ることができます。たまたま去年NHKで放送されていたのを見ることがあったのですが(正確にはこの映画を見てこの本を買ったのです)、この生態系の破壊だけでない、環境・社会の負の連鎖には眼を背けられない気味悪さが存在しています。こうして自分の知らないところで恐ろしい事象が進行しているのですが、その裏で近所のスーパーに行けば普通に白身魚コーナーにて「ナイルパーチ」が売られているということもまた一つの事実。いろいろと考えさせられるものです。

ダーウィンの箱庭ヴィクトリア湖

ダーウィンの箱庭ヴィクトリア湖

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