「東京検死官」

 警視庁勤務時代、3,000を超える死体の検死に立会い、検死の神様と呼ばれた芹沢常行氏。氏との対話と克明な「臨場日記」から、現役時代に携わった事件を振り返っている。
 普段ミステリーを読む人間だからか(また、最近法医学系も流行だからなのか)、「検死官」という言葉自体に違和感はなかったのだけど、実は根本的に検死官と監察医が違うものってことから読書はスタートした。いろいろ調べてみたけどどうもわかりづらく、監察医は変死体や死因不明な死体を調査する専門家、検死官は警察の立場から原因を特定して捜査支援をする人のこと、という理解でよいのだろうか。現在、日本には体系的な検死制度がなく、現在監察医を設置しているのは東京23区、横浜市名古屋市大阪市、神戸市の五都市だけ。人材・ポスト不足等諸々の兼合いもあり、それ以外の場所には監察医制度がなく、監察医による検死が行われていないのだという。そもそもそんな状況で問題ないのか、というとやはりあんまりよろしくはないらしい。
 そんな中、氏の、60年安保闘争や3億円事件などの昭和の大事件から、変死体の原因究明など、様々な検死に関わった経験などを語る。現場の状況や死体に向き合うこと、この丁重な捜査から、さまざまな「証拠」が出てき、隠れていた真相が表に登場することとなります。もちろん、すべてにおいて明らかになるとは限らないのですが、本書を読むと、検死の深さ、難しさ、そして重要さが良く判ります。最初、ただ単なる興味で読み始めたものだったのですが、『検死』ということのバックグラウンドなどを知ることでより楽しめたかと思います。

東京検死官<三千の変死体と語った男> (講談社文庫)

東京検死官<三千の変死体と語った男> (講談社文庫)

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