バスと温泉と登山鉄道と


行くまで

 しずてつジャストライン「静岡井川線」というバスが5月末で廃止になるという。新静岡バスターミナルから畑薙ロッジまでの約80km弱を3時間強かけて走る山岳路線。ハイキングと地元の足を兼ねているらしいけど、今は1日1往復。朝静岡を出て、夕方帰ってくる。途中、SLで有名な大井川鉄道井川線の終点と接続、また終点近くには秘湯らしい市営の温泉があるという。井川線の終点から静岡に抜ける裏ルートがあるのは知っていたのだけど、大井川鉄道に行く予定がなかなか立たず。そうこうしてるうちに、今年6月をめどに廃止され自主運行バスに転換されるという話をid:warehouse_mgrさんとこの日記で拝見し、めちゃめちゃバス好きというわけでもないのになんとしてもなくなるまでに行っておきたいと思ってたら、結局ぎりぎりになってしまった。一緒に行く?と話してた友人も仕事になり、自分の予定も直前まで決まらなかったので、結局金曜夕方になった東京出張帰りに新幹線を途中で降りて行ってみた。もともとは静岡駅→井川駅前、井川駅千頭駅→SLで金谷駅と思ってたのだけど、先のid:warehouse_mgrさんが先週(id:warehouse_mgr:20080517)行かれた話を読んでて、「井川駅より先が面白い」というのが気になって、なんとか当日大阪日着が可能とわかったので切り替え。まあ大井川鉄道のほうは、また友人とゆっくり来てもいいやとか思ったり。

朝8時15分。しずてつジャストライン、静岡井川線


 新静岡バスターミナル11番のりば。1日1本の静岡井川線、畑薙ロッジ行き。よほど道が狭いルートなのか、静岡県下唯一の運転士氏と車掌さんの2人組。最近ツーマンのバスなんて夜行バスで運転士が交代する路線以外で見たことないかも。バス停周りには結構人が集まっていたけど、実際に乗車したのは新静岡5人、静岡駅前5人の計10人で打ち止め。しばらくは普通に市街地の風景だったのが、だんだんと川沿いを走るにしたがって家並みが減り、沿道の「この先コンビニなし」という看板の後、本当にコンビニを見ることがなくなって少しずつ山道に入る。約1時間ほど走ったころに、公共のトイレがある「横沢」という停留所で10分の休憩。普通に貸切タイプのバスだったので気づかなかったけど、トイレがなかったんですね。

 1時間も乗っているとみなちょっと一息付きたくなる感じで、トイレに関係なくバスの外に出て伸びをしたりブラブラ散歩したり。運転手氏は車止めをつけた後、外に出てタイヤの点検に余念のない様子。あと、このバスの廃止を知ってか知らずか、みなバスの写真を撮影してるのがちょっと不思議。対向に路線バス型の静岡行きをやり過ごしてから発車。ここからは本格的な狭隘区間で、井川の集落まで峠越えのためずんずん登っていく。今にも泣き出しそうな天気とグルグル廻る道にかなりへたれ気味で、半分眠りながら過ごしていたところに「あっ!」という声とともに急停車。何かと思ったら、進行右手奥に白い帽子の乗った山の頂が…富士山?

 車掌さん曰く「今日は天気が悪いので無理かと思っていたのです」が、かなりはっきりとした姿が一望できました。皆が確認でき、写真を撮るまで停車してくれていたバスに感謝、と思うとやはり観光路線なんだなあ、と。ちょうどその先が峠の頂上らしく、その名も「富士見峠」。名前の由来をはっきり知ることができました。井川駅前でも数分の休憩。

 先ほどまでの峠道からは少し落ち着いた山道だけど、この時点で結構やられてしまいました。車酔いなんてかなり久しぶりだけど、油断していたからかそれだけきつい山道だったからか。本当は地図では近そうな終点・畑薙ロッジまで乗り通して、終点を見てからぶらぶら温泉まで歩こうと思っていたけど、いつの間にか「とりあえず横になりたい」一心でどうしようもなくなってしまったので、おとなしく白樺荘入口で下車することに。

 しかし、始発の時点で左のようだった表示機が、終点手前では右のような金額まで。さすが3時間乗るとずんずん跳ね上がるなあ。それも、なぜかPiTaPa導入の静鉄グループ、お支払いはICOCAで。おかげでチャージ分半分飛んで行きました。
 終点まで乗りとおす人が3人、ここで降りたのが井川集落の途中から乗ってこられたおばあさん一人。おばあさんが温泉へ向かい、バスが去った後には、雨の前の少し不気味な静けさが景色の色を奪っていきました。
 5月末で廃止になるこの路線。地元民用の自主運行バスとは別に、夏には登山バスとして運行されるらしいけど、団体募集旅行扱い(いわゆる貸し切りバスの一般開放扱い?)途中の停留所には止まらない直行便になるらしい、と運転手さんが話していた。
 
 帰りの白樺荘入口停留所で、行きにも乗られていた地元井川の話好きそうなおばあさんと、終点まで行かれていたたぶんバス好きの方に少し話を聞かせていただいた。
・1日1往復のバスでは、静岡市中心部の病院にいくのに丸3日かかる(昼の静岡行で出て泊まり、翌日診療後は井川行きのバスが出た後なので、もう1日泊まって朝の便で帰る)ので大変。今度自主バスに変わるとバスの本数が増えるので、日帰りできるようになるけど、お昼ご飯を食べる暇はないのでお弁当を持っていく。
・昔は、大鉄(大井川鉄道?)のバスも走っていて、もっとにぎやかだった。人がいないし仕方ないけど寂しいものだ。
・路線バスもなくなるけど、ここ(白樺荘)も来年にはなくなって、赤石温泉は山のほうに移動させて、宿泊もできるきれいな建物になるけど、今のように無料では使えなくなる。
・終点畑薙ロッジから白樺荘までは歩いて10分そこそこ(あーやっぱり試してみたかったかも)。途中で鹿が出たとか。→鹿以外に猪とかいろんな動物が出るけど、みな畑を荒らすので背の高い(2mくらいとか話されてた)柵が必要で大変。
・ここの温泉は、無料ということもあって、登山帰りに寄る人も多いけど、そういう人たちが風呂に入るとあっという間に湯船が真っ黒になる。なので、きれいな湯に入るために午前中とか早い目に行かないといけない。
・子ども・孫がいるけど、みな市内中心部やらもっと遠方にいるので、面倒を見てもらうとかいうのも考えられない。体を壊したときのために、働けるうちは働いてお金を持っておかないと(でもたまにあうお孫さんにはすぐ物をねだられると苦笑されていた)。
 なんか、いろいろと僻地と呼ばれるところの実態、自分が住んでいるようなところとの格差について考えさせられるような興味深い話、でした。いろいろと仕事的にもネタになるなとか思ったことは秘密。

11時30分。赤石温泉白樺荘


 そんなわけで、予備知識ほとんどなしでやってきた温泉、赤石温泉白樺荘。
 お湯がすごかった。つるつる、というよりぬるぬるというぐらい。なんでも硫黄分が通常の温泉の12倍もあるとか。たしかに軽く匂うけど気になるほどでもなく。休憩には大広間のほか個室もあって好きなほうを選べる。昔は民宿か何かだったような建物だけど、古くても清潔感はあり丁寧に使われている感じ。今日は比較的空いてるとかで、荷物もあったので個室を選んだのだけど、四畳半の部屋に机と座布団だけと質素だけど、充分ゆっくりできる感じ。窓を開けてぼぉっとしていたけれど、天候があんまり良くなかったこともあってか、ちょっと肌寒く感じるぐらいでした。

 ちゃんと食堂もあって(一応飲食物持ち込み不可と表示、自販機や小さい売店がある)、せっかくなのでと「ヤマメおろしそば」を食べてみたけど。食堂にいた地元の工事の人が一番おいしいメニューだと言っていただけあって、行きのバスでちょっとやられ気味だったのに、ヤマメや山菜きのこの天ぷらもうまく、さっぱりとしていてペロっと食べてしまった。

 静岡の南アルプスの山奥にある、昔ながらの施設を使った温泉。しかし、こんなところ(失礼)にこんな良い温泉があるとは思いもしませんでした。それも市営の温泉のため利用料は無料。こんな最高の条件ですが、なんでも来年には閉鎖し、上方の宿泊施設と一緒になるとか。建替え・移転となると今のままというわけにはいかないのでしょうね。ほとんどいないとはいえ、アクセスのバスも(実質的に)なくなるとなると、ますます秘境・秘湯度が高まってしまうのは勿体ない気がする。秘境といいつつ住所は「静岡県葵区」、先のバス静岡井川線は始発から終点まですべて区内*1移動だということがびっくりだったりしたのですが。

15時48分。大井川鐵道井川線

 雨が強くなってきたのが気がかりだけど、行きの山道でかなりやられたこともあり気分を変えたかったので、バスを井川駅前停留所で降り、大井川鉄道に初乗車。初乗車が逆ルートになるとは思ってなかったなぁ。
 井川から千頭まで「南アルプスあぷとライン」という、日本で唯一ラック式鉄道(アプト式区間が現存する、観光用森林鉄道線。窓を開けているのも辛い雨だったので、景色を味わうには微妙だったのですが、それでもなかなか風変わりな点が多々見られユニーク。私鉄では一番高いらしい橋(川底から100mあるという)、水墨画の世界のような(車掌さんが「東山魁夷」の絵画と称されてた。うまい!)キリがかる南アルプスの渓谷、巨大なダムと傾きが分かるほどの急勾配、ラック式区間の巨大な電気機関車と後ろのミニ客車のミスマッチ、etc...


 行きの団体輸送絡みで客車8両と最長編成だった井川発の最終便、しかし天候もあってかなり空いていました。車掌さんと雑談する機会があったのですが、実際の鉄道資産は中部電力所有となるのだとか。ちょうど乗車日の翌日から「年に数回の貨物輸送があるんですよ」と話されてました。「廃止にはならないでしょうけど、普段オフピーク時のこの便(井川15:48発の千頭行)は乗客0も珍しくなく、『こんなので給料もらってていいのか』と思うことも」なんて話も。観光鉄道としての道の難しさもあるようでした。今日の静鉄バスからの乗り継ぎだという話も、「バスの方も乗客がいないので仕方ない」が、代替バスが10人乗り程度のマイクロなので「以降、井川での乗り継ぎの案内はできなくなるのも残念」とか。軽便鉄道並みの規模とはいえ、10人乗りバスへの誘導は事実上不可。今日の行きのバスは、半数強が井川駅前で降りたことを考えると、この周遊ルートが事実上成立しなくなるというのは旅行者的には残念ですが、それまでにたまたま地域の状況を聞く機会があっただけに何とも言えない気持ちになります。



 しかし、周遊ルートが無くなっても、再びこのミニ列車に乗りに来ようと思うほど、この列車は楽しかった! とりあえず関西人としては親しみのわく本線とともに、今度は別の温泉とかに行ってのんびりするのも悪くないな、というとこ。さすがにちょっと疲れたからか、本線の記憶は全然無いし、SLというか旧型客車にも乗ってみたいし。

*1:政令指定都市の行政区としては日本一の広さらしい