ひさびさの読書メモ 054

「インドとイギリス」/吉岡昭彦/岩波書店岩波新書) インドとイギリス (岩波新書 青版 934)

 もう30年以上前の本なのですが。
「アジアとヨーロッパ」の近代史を端的に理解するための好書という感じ。筆者が実際にインドを旅した話に合わせて、イギリスがいかにインドから搾取してきたのかという実質の植民地経営の経済構造が、史実に即した形で書かれています。
 インドといえば、私の中では「紅茶の産地」であり「最後の鉄道王国」なのですが、そのどちらもが代表的なイギリスの植民地経営の象徴であること。何となくは理解していたつもりだったけど、それが実際はインドのためではなく、イギリス本国が、本国のために、本国の都合にあわせ行われたことだということだ、ということがよく理解できます。たとえば、紅茶の産地として有名なダージリンも、イギリス人が避暑地として開発し、紅茶を作らせ、運搬用に鉄道を敷設したものでした。
 なんとなく「イギリス人が統治すると、まず自分たちの生活スタイルを作ろうとする」というイメージがある*1のですが、その裏には巧妙にイギリスによる搾取システムが隠されているということがわかります。なぜ「巧妙」かというと、イギリス人が過去のインド支配を正当な使命だと考えているだけでなく、当のインド人がイギリス支配時に持ち込まれたシステム・制度などに好意的なとらえ方を持っていることでわかる*2。この辺は日本の植民地史観と大きく異なるので、私にはなかなか理解しがたかったのですが、この本を読んで、「理解できた」とまではいかないですが、心のもやもやとしたところが少しぐらいはすっきりできたかと。そして、この本の当時より30年たった今、問題が少しでも解消できているのかといえば、決してそうとは思えないのが現実です。貧困と地域格差など、ますます…。
 個人的には、せめて3年前、この本を読んでからインド旅行をしていれば、もう少し見方も興味も変わったかと思うとちょっと残念でしたが。
はてな年間100冊読書クラブ 054/100>

*1:香港やシンガポールの競馬もそんなイメージ

*2:実際にインドに行ったとき、そんな声を聞いた