アイルランドの砂浜競馬、レイタウン競馬場。


 出会いは競馬雑誌「優駿」2005年8月号175ページ。海外通ライターが進める魅惑のリゾート競馬場という特集。日本ではなかなかリゾート気分と競馬が一緒に味わえるところなんて無いのですが、海外ではバカンスで海や温泉にビールとともに競馬を楽しむような、そんなところがいくつもあるらしく。それらの競馬場は、日本のそれよりも格段に雰囲気もよく、子どもも一緒にがやがやと、殺伐とした雰囲気は似合わない、それこそ馬券を買わなくても楽しみ方はいろいろあるよ、そう優雅に過ごすという表現が一番しっくりくるのかな。フランス・ドーヴィル、ドイツ・バーデンバーデン、アメリカ・サラトガなど、一度は行ってみたいと思わせる競馬が紹介されていたのですが。最後に紹介されていた、砂浜を馬が駆け抜ける写真。この写真を見て即惚れ込んでしまいました。「遠浅の浜が、1年のうち最も干潮を迎える日、たった半日だけ姿を現す。」アイルランドの首都ダブリンから郊外列車で1時間、Laytownという海辺の小さな住宅街での1年に一度のお祭り。海を見ながら、フィッシュ&チップスをつまみながら、のんびりと競馬を楽しむ、そんな風景に憧れて。



 ドロヘダの隣駅レイタウンは、本当に郊外の住宅地。駅も普段は無人のようで、どこからかかり出されたらしい職員が二人、出口付近で乗車券の確認をしている。帰りは混むのかもしれないと思い、ダブリンまでの乗車券を購入したら、ぺらぺらの補充券*1でした。駅を出て、近くの商店で水を補給し、さあ海岸へ向かって歩こうとすると、店の前に止まっているランドクルーザーの後ろの小屋から馬の顔が。かわいー。そんな風景を眺めつつ、海へ向かって10分弱、海岸へ出ると、いるわいるわ人が、車が、そして馬が。


 海岸線にロープを張り、ラチとゴール板をたてて、その横に中継車とスタッフが。もうほんとそれだけ。コースはもちろん直線だけ、距離はプログラムを見ると1200mと1400mのレースの2種類。日本のように1日中朝から夕方まで12レースもということはなく、全部で6レース。海岸から有料観戦エリアに入る。2EUR。tote*2のトレーラー移動式馬券発売所や軽食発売のワゴン車・テント、ブックメーカーが立ち並び、結構な混雑。ちゃんとパドックもあり、これまた移動式の大型ビジョンでテレビ中継も流される。雰囲気は地元の祭りだが、れっきとしたアイルランドの競馬統轄機関*3が実施運営する公式競馬。ちゃんと記録も残ります。レースが終われば競馬場は跡形もなく消えますが。

 出走馬はサラブレッドとはいえ、ほとんどがハルウララ級の、余所で走っても勝てるかどうか分からないようなレベルの馬らしいのだけど(まあランクルで運ばれてくる馬があんまり強そうにも思わないよなぁ)、雰囲気も相まってなんだかのびのびとしている。本当に砂浜を駆けてくるよ。友人は写真を見て「暴れん坊将軍」って言ってたなぁ。馬によっては、レース前波打ち際まで散歩?に行っている奴もいるよ。おーい大丈夫なんか? スタートももちろんゲートがあるわけでもなく、スタート地点に馬が集まった時点で、スターターが旗を振ればスタート、という何ともアバウト、というかおおらかな競馬。(それを確認するため、往復3km強の海岸線を歩いて、帰国後腰痛で整体へ行くハメに…orz)

 砂浜でコースのヨコに一所懸命穴を掘る子ども(いいのか?)、ビール片手に海岸沿いの家の塀の上で応援するおっさん(それあんたのうちか?)、toteに並ぶ子ども(いいの??)、競馬そっちのけで話に夢中のおばさんetc... 気分はピクニック、馬券が当たってもはずれても関係ないのかな? どちらかというとレースは酒の肴か。そういう私も、チップスをつまみながら、プログラム片手に、砂浜とtoteとブックメーカーを往復。負けても「しゃあないな、次」という感覚で、いつもの競馬場での興奮とはひと味違った高揚感。本当は電車の時間の都合(これを逃すとレース終了後1時間待ち)で、最終の1レース前で帰ろうと思っていたのに、ついつい最後まで残り、レース後の後かたづけをぼーっと眺めていました。みるみるうちに、元の砂浜に戻っていく…。買った人も負けた人もいるはずなのに、何故かみんなにこにこ。満足感の中に、お祭りあとの寂しさを負けたからではないけれどちょっぴり感じながら、レイタウンの駅を後にしたのです。

*1:列車内で車掌さんが売っているぺらぺらの乗車券のようなもの

*2:いわゆる日本と同方式の、発売締切り後にオッズの分かる馬券を発売する、馬券発売公社のこと

*3:Horse Racing Ireland. 日本でいうJRAのようなもの